クズ男の話・・・「お前みたいな特殊趣味の変態と普通の女の子の感覚を比べようとするのもおこがましいわ」

マジでクズ男が登場する話

○お前みたいな特殊趣味の変態と普通の女の子の感覚を比べようとするのもおこがましいわ

少し前、上司の娘さんが痴漢に遭ったらしい。

満員電車で身を捩るくらいしかできない状況で、逃げることもかなわなかったらしくて、もうけっこう長く塞ぎ込んでいるそうだ。

上司は普段美味しそうによく食べる恰幅のいい人。

だけど、もともと家族思いないい父いい夫だから、娘さんがあまりにかわいそうで食事が喉を通らず、ひどくやつれてしまった。

それでも「プロジェクトの佳境で倒れるわけにはいかない」とゼリー飲料をなんとか飲んで踏ん張っている。

(ちなみに出勤時刻に自由が利いて路線の近い奥さんが娘さんの登校に付き添っているそうだ)

娘さんのことも上司のこともみんなで心配していたのだけど、A太が「痴漢の何が嫌なんだ、触られただけだろ」などと言い出して、数人がそれに同調した。

最初のうちは隅の方でヒソヒソと言い合っていたので、いい気持ちでは無かったが痴漢の問題はデリケートな面もあるから放っておいた。

そうしたら徐々に声が大きくなり、たしなめもしたのだけどやめようとせず、ついには上司の耳に入ってしまった。

上司、最初なんとかおさえて「なぜつらい思いをしている人がいるのにそんな心のないことが言えるのか」と冷静に諭した。

しかしA太はあろうことか痴漢冤罪を持ち出し、「娘さんに小遣いはあげていますか?」「冤罪で騒いでいるのでは?」などと失礼どころの騒ぎじゃないうえに的外れもいいところな主張を繰り広げた。

娘さん、恐怖のあまり悲鳴も出ない状況で、満員電車で逃げることも痴漢を特定したり捕まえたりすることもできていないのに、だから苦しんでるのに、痴漢冤罪なわけが無い。

終いには「触られるくらい、俺はむしろウェルカムですけどねぇ」などと下世話に笑いやがった。

上司の顔が、マスクから出てるとこだけでもわかるくらい真っ赤になった。

堪忍袋の緒が爆散する音がきこえてきそうなくらいだったのだけど、上司、怒りすぎて「お前……!」から言葉が続かない。

助太刀するかと思った瞬間、誰よりも早く、A太の仕事の相方であるB助が口を開いた。

「誰とも知れない汚いオッサンに無理矢理触られるのがウェルカムとかいう、お前みたいな特殊なヘキのヤツの話してねぇんだわ」

吐き捨てるようにっていうのはこういうのなんだなっていう言い方だった。

みんなが発言する直前に滑り込んだものだから、怒鳴ったわけでもないのに低いB助の声がよく通って、どよめいた。

当然、A太は、

「は!?お前何言ってんの!?」

と食って掛かったけど、想定外の切り口だったからか、声が裏返っちゃって情けないのなんの。

B助は完全に汚物を見る目で、

「痴漢に遭うってのはそういうことだろ?ウェルカムとかド変態もいいとこじゃねぇかよ。お前みたいな特殊趣味の変態と普通の女の子の感覚を比べようとするのもおこがましいわ」

とぶった切った。

A太は奇声をあげながらB助に向かっていったけど「密だわ、寄るな変態」とB助がファブリーズを噴霧。

それを見た笑い上戸の女性社員が吹き出して、やっと私達も我に返った。

動き出した男性社員何人かでA太は男子ロッカーへ連行され、上司は補佐が外に連れ出してた。

B助は普段あまり言葉数が多い方ではないけど、内外に向けたフォローが細やかで的確で、優しさも能力も周りからすごく信頼されている。

A太が「痴漢なんて」と騒いでる時に何度も宥めていた。

それでも止まらないので業務も可能な限り社内チャットでやりとりするくらい避けてた。

それでもコンビで動かざるをえない時も多くて、おそらく私達よりA太の暴言を聞かされていただろうし、腹に据えかねるものがあったのかもしれない。

2人の持っている資格の兼ね合いで組んでもらってたけど、A太と同じ資格持ちの新卒くんが今年入社。

来月から新卒くんとB助のコンビになるのがわかっていたのも、B助の背中を押したかもしれない。

あの後A太を連行していった男性社員がぼやいていたのを聞いてげんなりした。

A太の触られるのウェルカム発言は『美人なオトナのオネーサンに遊ばれちゃうボク』みたいな妄想の産物だったらしい。

キモい。

3文字以上感想を述べたくないくらいキモい。

でも、その男性社員も痴漢についてそれまで『異性に体を触られるのはそんなに嫌なのか、女性って繊細だな』くらいの認識だったらしい。

好きな人以外に触られるのなんか、相手がどんなイケメンでも気持ち悪い変態にしか見えない。

しかも上司の娘さんみたいな中高生から見たら社会人なんて基本みんなオッサンなのだから、痴漢など気色悪くて汚いオッサン以外の何者でもない。

ソレに無理矢理触られるなんて、もの凄く怖いし屈辱的だ。

「そりゃそうだよな。自分が男故に想像が足りてなかった」と難しい顔をしていた。

あれから数日。

A太は個人的に上司に謝罪。

気持ちよく許してはやれないと言われて小さくなってる。

当たり前だけど、女性社員はもちろん、男性社員からも腫れ物扱いをされている。

A太に同調していた数名は、変態の同類としてヒソヒソされている。

そもそもこいつらはA太に同調していただけで声は大きくなかった。

自分たちがしていたことをそのまま返されている状態だし、面と向かって言われたわけでもないので文句も言えないみたい。

しかし痴漢に遭ったショックってそんなに想像つかないかね?

冤罪は卑劣だし憎むべきだと思うけど、その可能性が無い話に無理矢理冤罪のことをこじつけるのには呆れた。

そして被害者の受けるダメージに対して想像も理解もあまりに足りなすぎて、Aと取り巻きの神経わからん話。

長文失礼しました。

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