【恋愛】幼馴染の男の子を好きになった話 親友もその男の子のことが好きだった…

中学生のとき、私には好きな男の子がいた。幼馴染の男の子だった。

その男の子は小学生のときは私よりも小さかった。でも、中学生になってぐんぐん背が伸びて、中学2年生のときには私より大きくなった。童顔だった顔も大きくなるにつれて精悍になり、大人っぽい顔になった。

その変化に私はドキドキした。

私はその男の子を異性として意識したことがなかった。友達感覚で付き合っていた。でも、彼が大人の男性へと変化していく過程で異性として意識するようになっていった。

でも、私はその意識の変化を男の子の前で出さないようにした。自分の変化を知られて関係がギクシャクするのが嫌だったからだ。

ギクシャクするだけならいい。私の変化に男の子が拒絶反応するかもしれない。拒絶されたら、嫌われてしまうかもしれない。それが私は怖かった。だから自分の意識の変化を隠した。隠して今までどおり友達のように彼に接した。

「おはよう」彼は気さくに挨拶をしてくる。

「おはよう」私も気さくに挨拶を返す。

「今日も奈々美は可愛いな」彼は昔からこんな軽口を言う男の子だった。

「聖人もかっこいいよ」私も昔からこんな軽口を言う女の子だった。

「美沙ちゃんも可愛いね」彼は私の隣りにいた女の子にも言った。

「聖人くんもカッコイイよ」美沙は言った。美沙は私の友達だった。

「ああ、2人とも俺の嫁にしたい。なんで日本は一夫多妻制じゃないんだろう」

「あんたみたいな軽薄な男が増えるからじゃない」

「失礼な。俺は軽薄じゃない。本気で2人を嫁にしたいと思ってるんだ」

「はいはい」

「できれば明絵ちゃんも嫁にしたいと思ってる」

「最低」

「すいません」

と、私の好きな男の子はこんな軽薄なことを言う男の子だった。でも、彼が軽薄な男の子ではないことを私は知っていた。女の子を平気で泣かせるような男の子ではないことを知っていた。そんな優しい彼だからこそずっと友達でいられたんだと思う。

でも、今は彼のことを友達として見られなくなっている。異性として見てしまっている。

そのせいで彼に「可愛い」と軽口を言われただけで嬉しい気持ちになってしまう。彼に「嫁にしたい」と冗談を言われるだけで結婚を考えてしまう。彼が他の女の子にも「可愛い」とか「嫁にしたい」と言っているところを見ると胸が苦しくなってしまう。

そんな自分が嫌だった。前の自分に戻りたかった。彼を友達と思っていたころの自分に戻りたかった。でも、もう戻ることはできそうになかった。それくらい彼のことを男性として意識するようになってしまっていた。

このままでは彼に私の変化を気づかれてしまうのではないか。そう思うようになっていた。それが私を不安にしていた。

そんなある日、彼が私の部屋にやってきた。彼が私の部屋に来るのは珍しいことではない。子供のころからお互いの部屋を何度も行き来していた。それは中学生になってからも変わらなかった。

彼の自宅は私の自宅の隣りにある。だからお互いの自宅を気楽に行き来できた。

私も彼もゲームが好きなのでよくいっしょにゲームをした。

今日も彼といっしょにゲームをした。

ゲームをしながら彼が言った。

「俺、好きな人ができたんだ」

私はコントローラーを落としそうになった。

「へえ、そうなんだ」

「うん」

「誰を好きになったの?」

「美沙ちゃん」

美沙・・・私の友達・・・私の一番仲の良い女友達。

「美沙か。そうなんだ。まあ、美沙可愛いからね。好きになる気持ちわかるわ」

「うん。それで告白しようかなと思ってる」

「そうなんだ」

「うん。でも俺、振られるのが怖いんだ。それで奈々美に美沙ちゃんに好きな男性がいないか聞いてほしいんだ」

「・・・」

「ごめん。変なお願いして。でも本当に怖いんだ。振られるのが。美沙ちゃんに好きな男性がいないとわかれば少しだけ安心して告白できる気がするんだ。ごめんな。情けない男で」

「情けなくないよ。誰だって告白するのは怖いと思うもん。だから私が美沙に好きな男性がいないか聞いてあげる」

「ありがとう」

その夜、私はなかなか眠ることができなかった。彼は美沙が好き。そう思うと泣きそうになった。

私の中にはもしかして彼は私なんじゃないかという幻想があった。ずっと私と仲良くしてきたんだからあるいは彼は私のことを好きなんじゃないか。だから私以外の女性と付き合うことはないんじゃないか。そんな幻想が私の中にあった。

でも、彼が美沙を好きということを知って、その幻想は木っ端微塵に壊れた。

告白がうまくいけば彼は美沙と付き合うことになる。私の親友といってもいい美沙と恋人関係になることになる。

それを想像するだけで泣きそうになった。でも私は涙を我慢した。大切な友達の2人が恋人関係になるかもしれないのに泣くのは間違っている気がしたからだ。

数日後、私は美沙の自宅に行き、美沙に好きな男性はいないか聞いた。

「どうしてそんなこと聞くの?」と美沙。当然の疑問だった。

「ほら、私たちももう恋人がいても不思議じゃない年齢じゃない。だから聞いてみたくなったのよ」

「奈々美、好きな男性できたの?」

「うん。できた」

「誰?」

「飯田先輩」

私は三年生の先輩の名前を言った。

「へえ、そうだったんだ。奈々美、飯田先輩のこと好きだったんだ」

「うん。かっこいいからね」

「てっきり奈々美は聖人くんのことが好きなんだと思ってた」

ドキッとする。

「まさか、聖人はただの友達だよ。それ以上の関係になりたい気持ちはないよ」

「そうなんだ」

「うん」

「よかった。じゃあ、安心して聖人くんに告白できるわ」

「えっ?」

「私の好きな男性はね、聖人くんなの」

「・・・嘘」思わずそう言っていた。

「本当よ。私は本当に聖人くんが好きなの。ずっと好きだったの。でも、奈々美が聖人くんのこと好きだと思ってずっと隠してたの」

美沙の顔は真剣だった。嘘をついているようには見えなかった。

「そうだったんだ。ごめんね。私のせいで」

「ううん。奈々美のせいではないわ。私に勇気がなかっただけ。ごめんね、隠してて」

「ううん。そんなこと気にしないで。私、応援するよ」

「ありがとう。ねえ、奈々美」

「んっ?」

「奈々美なら聖人くんの好きな女性知ってるんじゃない?」

「私が?」

「うん」

「さあ、知らないな。聖人、そういうこと話さないから」私は嘘をついた。聖人が美沙のことを知っているのに知らないと嘘をついた。

「そっか。ねえ、もし、嫌じゃなかったら聖人くんに好きな女性がいるか聞いてくれないかな?」

「・・・いいよ」

「ありがとう」

私は自宅に帰った。美沙は聖人のことが好きだった。そして聖人は美沙のことが好きだった。2人は両思いだったのだ。

この真実を2人に話せば、お互いの気持ちを知ることができて、付き合い始めることができる。私が真実を話すだけで2人を幸せにすることができるのだ。

それなのに私は美沙に真実を話さなかった。聖人の好きな女性なんて知らないと嘘を言った。親友に嘘を言ったのだ。そんな自分に自己嫌悪を感じた。

今から聖人の自宅に行って、美沙の気持ちを話せば、きっと聖人は喜ぶだろう。でも、わたしにはそれができなかった。聖人に自宅には行かず、自分の自宅に行った。そして自室にこもった。

泣いた。私はなんて酷い女なんだろうと思った。友達が幸せになれる真実を知っているのに話さない。なんて酷い女なんだろう。涙が止まらなかった。次から次へと溢れてきた。

ドアが開く音が聞こえた。見ると聖人が部屋に入ってきていた。

「どうして泣いてるんだ?」彼が訊く。

「私は酷い女だからよ」

「どうして酷い女なんだ?」

「嘘をついたの。美沙に。美沙に聖人の好きな女性知ってるって聞かれたの。私、知らないって答えたの。知ってるのに知らないって答えたの。聖人が美沙のこと好きだって知ってたのに知らないって答えたの。本当のこと言うのが嫌でそう答えたの」

「どうしてそう答えたの?」

「聖人のことが好きだから。大好きだから。そんな嘘ついちゃったの。2人がお互いのこと好きだって知ってしまったら、恋人関係になっちゃうから。それが嫌で嘘をついちゃったの。2人の幸せを祝福しなくちゃいけない立場なのにそんな嘘をついちゃったの。聖人と美沙が恋人関係になるのが嫌で。ごめんね。聖人。ごめんね。酷い女でごめんね」

「奈々美は酷い女じゃないよ。酷いのは俺だよ。美沙ちゃんを好きだと嘘を言った俺だよ」

「・・・えっ?」

「俺は美沙ちゃんを好きじゃないんだ。それなのに美沙ちゃんを好きだと奈々美に言って、奈々美に美沙ちゃんの好きな男性を聞きに行かせたんだ」

「どうして?」

「奈々美が誰のことを好きなのか知りたかった。だからそんな酷いことをしたんだ。美沙ちゃんに俺のことを好きだって言うのも嘘なんだ。俺が頼んだんだ。美沙ちゃんに。俺のことを好きだって奈々美に言ってほしいって。そうすれば奈々美の本心を知ることができると思ったんだ」

「じゃあ、美沙は聖人のこと好きじゃないの?」

「好きじゃないよ。美沙ちゃんは僕の頼みを聞きいれて、嘘を言ってくれただけなんだ。本当だよ」

「・・・」

私のスマホが鳴った。画面を見る。美沙からの電話だった。

「もしもし」

「奈々美。泣いてるの?」

「うん」

「聖人くんはそこにいる?」

「うん」

「話は聞いた?」

「うん」

「私のことも聞いた?」

「うん。聖人が頼んだって言った」

「その通りよ。私は聖人くんに頼まれたの。そして嘘をついたの。聖人くんが好きだってね。奈々美の本心を知るためにね。奈々美、本心隠すの上手だから」

「・・・酷いよ」

私はさらに泣き始めた。

「酷いのはお互いさまでしょ。奈々美だって私たちに酷いことしたんだから」

「そうだけど」

「もうそんな思いしたくなかったら正直に生きなさい」

「うん」

「ほら、いますぐ告白しなさい。そうしないと聖人くんが心変わりしてしまうかもしれないわよ」

「わかった。ありがとう。美沙」

「うん」

電話が切れた。

私は泣きながら聖人を見た。

「聖人に言いたいことがあるの」

「なに?」

「聖人のことが好きです。私と付き合ってください」

「喜んで」

聖人は笑顔を浮かべてそう言ってくれた。

私は泣きながら笑顔を浮かべた。

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