【恋話】小学5年生の頃の初恋。告白して振られた…でも素敵な思い出
小学5年生のとき僕には好きな女の子がいました。
『小泉さん』という同級生の女の子でした。
小泉さんは半年前に転校してきた女の子でした。
都会的で可愛い女の子でした。
一目見たその瞬間に僕は恋に落ちました。
彼女と仲良くなりたいと思いました。
でも、人見知りの激しい僕には仲良くなるどころか声をかけることさえできませんでした。
声をかけることさえできないまま、1ヶ月、2ヶ月と月日だけが流れていきました。
でも、その間も彼女のことを密かに観察していました。彼女のことを密かに見たり、彼女の話を密かに聞いたりしました。
彼女の声を聞くたびに幸せな気分になりました。彼女の顔を見るたびに胸がドキドキしました。
彼女のことを知れば知るほど、彼女への思いがどんどん大きくなっていきました。
僕はこの思いを彼女に伝えたいと思いました。
自分の思いを誰かに伝えたいと思ったのは生まれて初めてでした。
僕はなんとか自分の思いを伝えようとしました。でも、人見知りの僕はどうしても彼女に声をかけることができませんでした。
学校で彼女に話しかけた場合、誰かに見られ、冷やかされる可能性があると思うと怖くて話しかけることができませんでした。その程度の恐怖で好きな女の子に声をかけられないほど当時の僕は臆病な性格でした。
でも、どうしても彼女にこの思いを伝えたい。僕は考えました。必死で考えました。そしてこう考えました。休みの日、直接、彼女の自宅に行けば、クラスメートに見られる可能性は低いのではないか、と。学校で彼女に話しかけるよりは見られる可能性は低い気がする、と僕は思いました。
そう思った僕は次の日曜日に彼女の自宅に行き、自分の気持ちを伝えようと思いました。
そう決めた僕は頭の中でシュミレーションを始めました。彼女の自宅に行ったときのシュミレーションを。何度も何度もシュミレーションしました。彼女の家に行き、インターホンを押して、彼女の両親が出てきたらどうしたらよいか?とか彼女とどんな話をしようかとか考えました。
考えれば考えるほどに怖くなっていきました。自分の気持ちなんて伝えたら嫌われるんじゃないかと予感が強くなっていきました。気持ちなんて伝えないほうがいいんじゃないかという気持ちが強くなっていきました。
でも、僕はどうしても彼女に自分の気持ちを伝えたいと思いました。それくらい僕の彼女への思いは強いものでした。
だから僕は日曜日、逃げしたい気持ちを必死で抑えて、彼女の自宅に向かいました。
彼女の自宅に近づくにつれて、心臓の鼓動が早くなっていきました。恐怖感も強くなっていきました。こんなに緊張したのは生まれて初めてでした。戦地に向かう兵隊みたいな心境で僕は自転車をこぎ続けました。
彼女の自宅が見えてきました。僕は彼女の家の前をゆっくりと通りすぎました。通り過ぎるとき、彼女の家の様子を窺いました。
カーポートには車がありませんでした。門も閉じられていました。
彼女は両親といっしょに出かけてしまったのかもしれないと思いました。僕はホッとしました。同時にガッカリもしました。
でも、彼女がいないとは限らない。いないかもしれないけど一応インターホンを押してみようと思いました。
僕は門のところに行き、インターホンを押そうとしました。でも、なかなか押せませんでした。彼女はいないかもしれないんだからと思って自分を安心させても押せませんでした。早くしないと誰かに見られてしまうかもしれないと不安を煽っても押せませんでした。
押せないまま時間だけが流れました。どれだけの時間が流れたかわかりません。たぶん、1分も経ってなかったかもしれません。でも、僕には1時間くらい経っているような心境でした。
そのとき背後から「何してるの?」と声をかけられました。
僕は銃撃されたように振り返りました。
そこには小泉さんがいました。怖い顔でこちらを見ています。彼女のそんな怖い顔を見たのは初めてでした。学校での彼女はいつも明るい表情をしていました。明るいが僕の中での彼女のイメージでした。その彼女が怖い顔をしています。
僕はさっと血の毛が引きました。
「・・・あの、ごめん」僕は思わず謝ってしまいました。
「どうして謝るの?高橋君は私に謝るようなことしたの?」
「してないよ」
「じゃあ、どうして謝るの?」
「・・・キミが好きなんだ」僕は思わずそう言っていました。
「・・・」
「キミのことが好きでその気持ちを伝えるために来たんだ」
「私は高橋君のこと好きじゃないわ」
「・・・そうだよね。僕のこと、小泉さんが好きなわけないよね」
「帰って」
「うん」
涙が滲んできました。初めての失恋。泣きたくなるのは当然のことでした。
彼女は門を開け、家の中へ消えていきました。
僕は帰りました。泣きながら自転車を全速力でこぎました。そして無人の神社がある境内に入り、誰もいない境内のベンチに座り、泣き続けました。泣いても泣いても涙が止まりませんでした。永遠に涙が止まらないのではないかと思うくらい涙は溢れてきました。
でも、涙はちゃんと止まりました。
翌日、学校に行きたくありませんでした。彼女と会うのが嫌だったからです。彼女に怖い顔をされたり、嫌な顔をされたらどうしようと不安だったからです。
でも、僕はそれまでの人生学校を休んだことがないくらい健康に恵まれた子どもでした。そのためどうやって学校を休んだらよいかわかりませんでした。だから嫌々ながら学校に行きました。
学校に着き、教室に恐る恐る入りました。
教室に彼女の姿はありませんでした。
僕はホッとしました。でも、彼女はそのうち学校に来るだろうと思いました。彼女は転校してきてから一度も学校を休んだことがありませんでした。だから彼女が学校に来るのは当然と僕は思っていました。
でも、その日、彼女は学校に来ませんでした。風邪で休むと先生は言っていました。でも、僕は彼女は僕に会いたくなくて学校を休んだのではないかと思いました。そう思うと暗い気持ちになりました。告白なんてしなければよかったと思いました。
次の日も彼女は学校を休みました。僕はさらに暗い気持ちになりました。僕は彼女に謝りたい気持ちになりました。
次の日、彼女が学校に来ました。朝、教室に入ってきた彼女はマスクをつけていました。風邪というのは本当だったようでした。
彼女は僕のほうを一度も見ませんでした。きっと僕のことなんて見たくもないのだろうと思いました。
その約1ヵ月後、彼女が再び転校することを僕は知りました。
彼女が転校する・・・僕のせいなんだろうか?僕が告白なんてしたから彼女は転校することにしたんだろうか?そう思うと胸が苦しくなりました。
僕は彼女に謝ったほうがいいのではないかと思いました。そうすれば彼女は転校を考え直してくれるのではないかと思いました。
謝ろうと僕は思いました。日曜日、彼女の自宅に行って。謝ろう。
日曜日、僕は彼女の家に行きました。前と同じように自転車で。
彼女の自宅に着きました。カーポートには前と同じように車はありませんでした。あたりを見回しました。彼女の姿はありません。今回は背後から突然、彼女に声をかけられる心配はなさそうでした。
僕は勇気を振り絞ってインターホンを押しました。
しばらくすると彼女が玄関のドアを開け、出てきました。そして僕に近づいてきました。
「何してにきたの?」彼女は冷たい声で言いました。
「ごめん。どうしても謝りたくて」
「謝る?」
「僕のせいで転校することになったのかなと思って。僕が告白なんかしたから」
「違うわ。高橋君は何も悪くない。この転校はあなたが告白する前から決まっていたことなの」
「そうなの?」
「そうよ。だから高橋君のせいじゃないわ」
「よかった。僕のせいかと思ってたから」
「高橋君のせいよって言ったら、あなたはどうするつもりだったの?」
「わからない。とにかく謝るしかないと思ってた。僕にはそれくらいしかできないから」
「高橋君はこれからも誰かに振られるたびにそうやって謝るつもりなの?」
「それは・・・わからない」
「そんなことやめたほうがいいよ。告白することは悪いことじゃないんだから」
「でも、小泉さんに嫌な思いさせたし」
「私がいつ嫌な思いをしたって言った?」
「・・・」
「言ってないよね?私はね、高橋君に告白されて嫌な思いなんてしなかった。すごく嬉しかった。だって私は誰かに告白されるのなんて初めてだったから。すごく嬉しかった。誰かの強い気持ちを伝えられたの初めてだったからすごく嬉しかったんだよ。本当だよ」
「・・・」
「でもね、その気持ちに応えることはできなかった。私は高橋君のこと好きじゃなかったから。だから高橋君の気持ちはすごく嬉しかったけど、断ったの。もし、私があなたのこと好きだったら断らなかった。本当よ。だから私が高橋君に告白されて嫌だったなんて思わないで。そんなの悲しすぎるから。だから思わないで」
彼女は真剣な表情で言いました。その真剣さの中には少し悲しそうな表情も混じっていました。
僕は彼女が嘘を言っているようには見えませんでしたし、思えませんでした。
「思わないよ」
「うん」
そして2人の間に短い沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは彼女でした。
「ねえ、握手しよ」
「握手?」
「うん。握手すればすべてが良い思い出になるような気がするの。そんな気がしない?」
「うん。そんな気がする」
「じゃあ、握手しよ?」
「うん」
僕たちは握手をしました。彼女の手は暖かく、そして柔らかでした。
握手をしながら僕は彼女を見ました。彼女は笑顔を浮かべてくれました。すべてを明るく照らす太陽のような笑顔でした。
ずっとその笑顔を見ていたいと思いました。ずっと彼女の手を握っていたいと思いました。ずっとこの時間が続けばいいのにと思いました。
僕は未練を残しながら握手を終わりにしました。
「バイバイ」と彼女は笑顔で言って、家の中に消えていきました。
僕はしばらくその場に立っていました。
僕は自転車をこぎ出しました。幸せな気持ちでした。恋が成就したような気分でした。そんな錯覚を抱いてしまうくらい幸せな気持ちでした。
その約2週間後、彼女は転校していきました。
彼女とのお別れのとき、泣きそうになりました。恋人との別れのように。でも彼女は別れのときも笑顔を浮かべていました。だから僕も笑顔を浮かべ続けました。
クラスメートたちは彼女のために寄せ書きを書きました。もちろん、僕も書きました。僕は「ありがとう」と書きました。その言葉が一番、適切な言葉だと思ったからです。
友達に何を言われてもいいと思いました。冷かされてもいいと思いました。そう思うくらい自分の正直な「ありがとう」の気持ちを伝えたいと思いました。
彼女は僕の「ありがとう」という寄せ書きを持って転校していきました。
以上が僕の小学5年生の頃の思い出です。
今でも素敵な思い出として僕の中に残っています。
時が経つにつれ、彼女は僕のことが好きだったのではないかと思うようになりました。そう思うとせつない気持ちになりました。
でも、彼女は僕と別れるときも笑顔でいました。きっと彼女は僕はせつなくなることを望んでいない気がしました。
だから僕は彼女のことを考えてせつなくなったときはあのときのことを思い出すことにしていました。握手をしながら笑顔を浮かべてくれたあのときの彼女のことを。
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